
この作品のデータ
| 作者 | 葛飾北斎 | 同じ作家の作品 5点 |
|---|---|---|
| 制作年 | 1849年(嘉永2年) | |
| 時代 | 日本・近世まで | 同じ時代の作品 42点 |
| 様式 | — | |
| 種別 | 絵画 | |
| 技法・素材 | 絹本墨画淡彩 | |
| 所蔵 | 北斎館長野県小布施町 | |
| 有名度 | ★★★ | |
| 展覧会 | フランス ナント「EXPOSITION HOKUSAI」凱旋展 小布施 北斎の傑作北斎館(長野県)2026年10月24日(土)〜2027年1月17日(日) | 開催中 |
落款に「九十老人卍筆」と記された、葛飾北斎の最後の作品とされる掛軸です。亡くなる年の正月に、雪の富士山を越えて天へ昇る龍を描きました。太平洋戦争の前に東京へ流出し、空襲で焼けたと考えられていましたが、1983年に再発見されています。
絵を見て作者を当てる練習は、名画クイズ(iPhone アプリ)でできます。
見どころ
黒雲の中を昇る龍
富士山の右上から、黒煙のような雲が渦を巻いて立ちのぼっています。その雲の中に、細い線で描かれた龍の体が見えます。所蔵する北斎館は、天に昇る龍をさらに高みを目指したい北斎の気持ちの表れかもしれないと紹介しています。
雪に覆われた富士
画面の中ほどを、白く雪の積もった富士山が大きく占めています。山肌には墨の点や筋が入り、黒い雲の向こうに山がそびえる配置になっています。
九十歳の落款
右下には「嘉永二己酉年正月辰ノ日」「宝暦十庚辰年出生」「九十老人卍筆」の落款があり、その下に「百」の印が押されています。描いた日付と生まれ年、そして90歳という年齢を、北斎は自分で書き込んでいます。
小布施を離れて戻るまで
小布施の豪家、高井鴻山の金銭出納帳には、嘉永6年(1853年)3月11日に江戸の長川鎌太郎から「富士越龍図表装付一幅」を買った記録があります。鴻山はこれを穀屋岩吉という人物に譲ったとされ、この一幅が北斎館の作品だと考えられています。
その後、昭和16年(1941年)の雑誌『丹緑』に図版が載っており、東京へ移ったと推察されています。美術史家の永田生慈は、太平洋戦争の前に東京へ流出して空襲で焼失したと考えられていたと書き、昭和58年(1983年)の再発見を伝えています。北斎館が購入して小布施へ戻ったのは、昭和62年(1987年)12月のことです。
佐久間象山の賛がある紙本
同じ構図の作品がもう1点あります。こちらは紙に墨で描かれた170.0 × 88.5 cmの大きな一幅で、落款は「画狂老人卍筆」です。佐久間象山の漢詩の賛が添えられ、青い海から生まれた龍が富士山の上を一瞬で飛び過ぎていく情景をうたっています。昭和7年(1932年)に図版が載ったあと所在がわからなくなり、所蔵者が判明して2015年に再び紹介されました。
絹本と紙本のどちらが先に描かれたかは、わかっていません。美術史家の久保田一洋は、紙本が先にあり、それを見た別の注文主が小さな絹本を頼んだのではないかと推測しています。さらに、象山が天保12年(1841年)に詠んだ『望岳賦』を絵にした作品だとも指摘しています。東京国立博物館にある『望岳賦』の書幅は紙本とほぼ同じ大きさで、二つを象山の私塾に並べて掛けるために作られたのではないかと久保田は考えています。
くりかえし描いた富士山
富士山は、北斎が生涯にわたって何度も描いた題材です。版画の連作『富嶽三十六景』では、「赤富士」と呼ばれる『凱風快晴』や、稲妻が走る富士を描いた『山下白雨』を残しました。最晩年の本作では、その富士を越えて龍が天へ昇っていきます。
よくある疑問
- 『富士越龍図』はどこにある?
-
絹本の一幅は、長野県小布施町の北斎館が1987年12月に購入し、所蔵しています。北斎館の企画展で展示されてきた作品なので、見られる時期は北斎館の公式サイトで確かめてください。同じ構図の紙本の一幅は個人蔵です。
- 『富士越龍図』の読み方は?
-
「ふじこしのりゅうず」または「ふじこしりゅうず」と読みます。所蔵する北斎館は「富士越龍(ふじこしりゅう)」の名前で紹介しています。
- いつ描かれた?
-
落款にある「嘉永二己酉年正月」から、1849年(嘉永2年)の正月に描かれたとされます。北斎館は、北斎が亡くなる年の正月に書き初めとして描いたと紹介しています。北斎はこのとき90歳で、同じ年に亡くなりました。
- 本当に北斎が描いた?
-
美術史家の楢崎宗重が鑑定し、真作とされています。ただし来歴の不確かさから北斎の作品ではないとする論考もあり、娘の葛飾応為が手がけたとする説もあります。
葛飾北斎のほかの作品
《神奈川沖浪裏》 《富嶽三十六景 凱風快晴》 《富嶽三十六景 山下白雨》 《東海道江尻田子の浦略図》
出典・画像について
画像: Wikimedia Commons(Public domain)。元ファイル
