
主役の富士山が、いちばん小さい。手前で砕ける大波は高さ10メートル超と推定され、3艘の船に約30人がしがみついています。当時5,000〜8,000枚が摺られ、現存は世界で100点ほど。ゴッホが絶賛し、千円札の裏に選ばれ、日本の絵でもっとも広く知られる一枚です。
見どころ
波頭の指
砕ける瞬間の波頭は、無数の爪のように分かれています。飛び散るしぶきは、遠くの富士に降る雪のようにも見えます。波の曲線は弧を描き、富士を中心にした構図を作っています。
小さな富士
『富嶽三十六景』の主題である富士山は、画面中央下に背景として小さく置かれています。本来は雄大な山を小さく描いて、手前の波の豪快さと対比させています。
硬直する30人
船は活魚などを運んだ押送船。船ごとに8人の漕ぎ手が艪にしがみつき、船首に2人以上の乗客が見えます。動く波に対して人々は固まっていて、その対比が緊張を生みます。
三大役物
『富嶽三十六景』は全46図。そのうち「凱風快晴」「山下白雨」とこの図を合わせて三大役物と呼びます。北斎の画業全体を通しても、もっとも広く世界に知られた代表作です。画面左上の枠内に題名「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」、その左に署名「北斎改為一筆」があります。
螺旋の構図
一筋一筋の水の流れ、波のうねり、波に沿う船の動き、富士のなだらかな稜線は、いずれも幾重にも折り重なる対数螺旋の構成要素になっています。版木の摩耗の状態から、当時から人気が高かったことがわかります。
海を渡った絵
1800年代にはヨーロッパに渡り、ゴッホが絶賛するなど後期印象派の画家たちに影響を与えました。ドビュッシーの『海』の楽譜の表紙にこの図が印刷されたことから、曲の着想をこの絵から得たという話がありますが、根拠のない俗説です。2024年発行の千円紙幣の裏面と、日本国旅券の査証ページにも採用されています。
よくある疑問
- 『神奈川沖浪裏』はどこで見られる?
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版画なので原本が1点ではありません。当時5,000〜8,000枚が摺られたと大英博物館は推測し、現在は世界中に約100点が現存すると考えられています。東京国立博物館、すみだ北斎美術館、メトロポリタン美術館、大英博物館など日本と世界の主要な美術館が所蔵しています。
- この波は津波?
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津波と解釈されるようになったのは1960年代以降で、それ以前は通常の波として見られてきました。描かれた波は波長が短く、津波の描写ではありません。2019年に英国の大学が実験で作った一発大波(フリークウェーブ)の形がこの波によく似ていると報告されています。
- 波の高さはどれくらい?
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押送船の長さが12〜15メートルで、北斎が垂直方向を30%ほど引き延ばしていることから、波の高さは10〜12メートルと推測されています。
- 「神奈川沖」はどこ?
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神奈川宿(現在の横浜市神奈川区)の沖合です。ただし描かれた押送船は房総半島から江戸へ海産物を運ぶ船なので、東京湾の対岸にあたる木更津沖から富士を望んだという説もあります。
基本データ
- 作者
- 葛飾北斎Katsushika Hokusai
- 制作年
- 1831年頃
- 種別
- 浮世絵
- 技法・素材
- 多色摺木版画(横大判錦絵)
- 寸法
- 約 26 × 38 cm
- 所蔵
- 東京国立博物館ほか(版画のため各地に現存)
- 展示室
- 日本・近世まで
葛飾北斎のほかの作品
出典・画像について
画像: Wikimedia Commons(Public domain)。元ファイル