フェルメールが屋外の風景を描いた現存作品は、この絵と『小路』の2点だけです。作家マルセル・プルーストは小説の登場人物に、本作の「黄色い小さな壁面」を見つめながら「こんな風に書くべきだった」とつぶやかせて息絶えさせています。建物の配置や高さは、水平の構図を強調するために現実とは変えて描かれています。
見どころ
尖塔にカリヨンがない
画面中央やや右の白い塔は新教会です。塔の上部が素通しになっているのは、鐘の組み物カリヨンが1660年9月から2年かけて取り付けられる前の姿だからです。他の画家が描いた同じ塔と見比べることで、制作時期を絞り込む手がかりになっています。
改修中のニシン漁船
右端に係留された2隻は、ニシン漁に使われたバス船です。前後のマストが外れていたり傾いていたりすることから、船が改修中だとわかります。船縁には実際には見えないはずの光の斑点が点々と描かれ、画面に生気を与えています。
身なりでわかる乗客
手前の岸辺には、ロッテルダムやハーグへ向かう定期船を待つ人々が立っています。流行の服を着た3人組はおそらく一等船客で、当時の定員は一等8人、二等25人でした。
室内画家が描いた故郷の街
フェルメール作品は室内画が中心で、風景画はこの絵と『小路』の2点だけです。デルフトを描くにあたり、フェルメールは街を客観的に一望するのではなく、自身の人生に関わる建築物を選んで描いたとされています。洗礼を受けた新教会、暮らしたマルクト広場、ロッテルダムやハーグへの外出に使ったスヒーダム港、そして没後に葬られることになる旧教会が、いずれも画面に収められています。
水平線を強調するための操作
画面は空、街、水面、手前の岸辺という4つの水平な帯に分かれています。フェルメールは視線が水平に流れやすいよう、建築物を現実と異なる配置に変えました。色彩でも、前景と中景を暗い色調、後景を明るい色調にすることで水平性を強めています。水面に映る建物は実際よりも大きく描かれ、対岸まで長く伸びていますが、これは縦方向の描写を加えて水平性の単調さを緩和する狙いがあったと推測されています。
忘れられかけた画家の再発見
本作は、フェルメールが再評価されるきっかけになった作品です。美術評論家トレ・ビュルガーは、1858年から1860年ごろの著作では本作を過剰な絵だと評していましたが、1866年の論文では一転して称賛しました。この論文をきっかけにフェルメール作品への関心が広がり、印象派の画家たちにも影響を与えたといわれています。
作家プルーストは1902年に本作を鑑賞し、生涯にわたって強い思い入れを抱き続けました。小説『失われた時を求めて』では、作家ベルゴットが本作の「黄色い小さな壁面」を見つめて「自分もこんな風に書くべきだった」とつぶやいたのち倒れて死ぬ場面を書いています。プルースト自身も1921年に本作を鑑賞しに出かけており、そのときの会場での姿が生前最後の写真として残されています。
よくある疑問
- 『デルフト眺望』はどこにある?
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オランダ・デン・ハーグのマウリッツハイス美術館に所蔵されています。フェルメールの死後は個人コレクターの手を転々とし、1822年のアムステルダムでの競売でオランダ政府が落札、国王ウィレム1世の指示でハーグへ移されました。
- なぜ建物の配置が実際と違う?
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フェルメールは視線が水平方向に流れるよう、建物の位置や寸法を意図的に変えています。ロッテルダム門は前方に張り出させず横に引き延ばし、建物の高低差も実際より抑えて、帯状の景色にまとめました。
- カメラ・オブスクラを使って描いた?
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漁船の船縁に描かれた光の点は、カメラ・オブスクラで自然光を見たときに生じる錯乱円に似ているとされ、使用説の根拠にされています。ただしカメラ・オブスクラには強い光源が必要で、このような効果は実際には見えなかったはずだという反論もあり、断定はされていません。
- なぜ有名になった?
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19世紀後半、フランスの美術評論家トレ・ビュルガーが論文「デルフトのファン・デル・メール」で本作を称賛したことがきっかけで、忘れられかけていたフェルメールの再評価が進みました。ゴッホをはじめ多くの芸術家に称賛され、プルーストは「世界で最も素晴らしい絵」と書き残しています。
基本データ
- 作者
- ヨハネス・フェルメールJohannes Vermeer
- 制作年
- 1660〜1661年頃
- 種別
- 絵画
- 技法・素材
- 油彩、カンヴァス
- 寸法
- 96.5 × 115.7 cm
- 様式
- オランダ黄金時代の絵画
- 所蔵
- マウリッツハイス美術館(デン・ハーグ)
- 展示室
- バロック・ロココ
ヨハネス・フェルメールのほかの作品
《牛乳を注ぐ女》 《真珠の首飾りの女》 《真珠の耳飾りの少女》 《絵画芸術》 《地理学者》
出典・画像について
画像: Wikimedia Commons(Public domain)。元ファイル
