
洗礼者ヨハネの生首が光輪に包まれて宙に浮かぶ幻を前に、サロメを含め誰ひとり反応を示していません。幻覚なのか、サロメの想像なのか、絵は答えを示さないままです。阿片による幻覚という説もありますが、根拠は立証されていません。オスカー・ワイルドはこの絵に感銘を受けて戯曲『サロメ』を書いたとされています。
見どころ
宙に浮かぶヨハネの首
光輪に包まれたヨハネの首が、血を流しながら空中に現れています。日本の木版画や、フィレンツェにあるチェッリーニ作『メデューサの首を持つペルセウス』のメデューサの首を思わせるとされています。
上を指すサロメの手
宝石で飾られたベールをまとうサロメは、左手で幻の首を指し示しています。体は正面を向けたまま、目前の光景に直接の反応は見せません。
薄闇に佇む処刑人
背景の薄明かりのなかに剣を持つ処刑人が立ち、足元には斬首に使われた銀の大皿が見えます。豪華な宮殿の装飾はアルハンブラ宮殿から着想を得たとされています。
8点以上を残した連作
モローは聖書を題材にした作品として油彩画19点、水彩画6点、150点以上の素描に取り組みました。『出現』はそのうち、少なくとも8点のよく似た絵画と40点以上の素描につらなる1点です。1875年ごろには同じ題名の油彩画も手がけており、水彩の本作とは姉妹作の関係にあります。
サロメ像を書き換えた
聖書ではサロメは母ヘロデヤの意に従っただけの人物として描かれていますが、モローは彼女自身の欲望に従って行動する人物として描き直しました。理性よりも本能、客観性よりも主観性、明示よりも暗示を強調するこの描き方は、詩人ジャン・モレアスが名付けた象徴主義の特徴を備えているとされています。
サロメ・ブームの起点
1876年のサロン・ド・パリで発表されると大きな評判を呼びました。マラルメの詩『エロディヤッド』、マスネのオペラ『エロディアード』、フローベールの短編『エロディアス』など、20世紀まで続くサロメを題材にした作品群の火付け役になったとされています。モロー自身の名声は一時忘れられましたが、この作品の影響力の大きさが、20世紀後半のモロー再評価につながりました。
よくある疑問
- 『出現』(モロー)はどこにある?
-
パリのオルセー美術館に所蔵されています。1876年にベルギーの画商レオン・ゴシュが購入し、翌年ロンドンのグロウヴナ・ギャラリーで展示された後、現在はオルセー美術館に収蔵されています。
- 何が描かれている?
-
新約聖書のマルコ伝・マタイ伝に記された、ヘロデ王の誕生祝いでサロメが舞を披露し、褒美として洗礼者ヨハネの首を所望する場面です。画中では首は光輪に包まれた幻として宙に浮かんでいます。
- 油彩版とは何が違う?
-
モローは同じ主題で油彩画も手がけており、水彩の本作とは姉妹作の関係にあります。『出現』を含むサロメの題材だけでも、少なくとも8点のよく似た絵画と40点以上の素描を残しています。
- オスカー・ワイルドとどんな関係がある?
-
ワイルドは1884年にルーブル美術館でこの作品を見て感銘を受け、それが戯曲『サロメ』(1893年)執筆のきっかけになったと伝えられています。この戯曲はのちにリヒャルト・シュトラウスのオペラ『サロメ』の下敷きにもなりました。
基本データ
- 作者
- ギュスターヴ・モローGustave Moreau
- 制作年
- 1874〜1876年
- 種別
- 絵画
- 技法・素材
- 水彩
- 寸法
- 106 × 72.2 cm
- 様式
- 象徴主義
- 所蔵
- オルセー美術館(パリ)
- 展示室
- 印象派以後
出典・画像について
画像: Wikimedia Commons(Public domain)。元ファイル