
描かれているのは実在の風景ではなく、コローの記憶のなかの光景です。1850年代に何度も通ったモルトフォンテーヌ村の池と木立を、現地でスケッチせずに「思い出」として再構成しました。手持ちの古い風景写真のぼやけた質感を、絵の具で再現しようとしたとも言われています。
見どころ
湖畔にたたずむ女性と子どもたち
静まり返った湖のほとりで、女性と子どもたちが穏やかに過ごしています。人物の輪郭は細部までは描き込まれず、全体の空気感のなかに溶け込んでいます。
枝を大きく広げた木
画面の左側には、湖に向かって大きく枝を広げた木が描かれています。木々に縁取られた鏡のような水面と合わせて、コローが繰り返し追い求めた光と反射の効果を伝えています。
ぼかされた輪郭
輪郭のはっきりしない、ぼんやりとした描写は、初期の風景写真のにじんだ質感を思わせます。コローは多くの風景写真を収集しており、その効果を絵の具で再現しようとしていた可能性が指摘されています。
写実から詩情への橋渡し
コローの初期作品は写実主義の傾向を強く示していましたが、画業が進むにつれてより叙情的な要素を取り入れるようになりました。その作風は、写実主義と、その後に台頭する印象派とをつなぐ橋渡しとして評価されています。『モルトフォンテーヌの思い出』は、その後期の詩情豊かな仕事のなかでも最も成功した例のひとつとされています。
印象派に迫りながら、印象派ではない
湖と風景は細部の描写よりも大きな筆致で捉えられ、光の効果への細やかな注意が払われている点は印象派に近づいています。ただし、筆致そのものは丁寧で、色調は印象派の画家たちが好んだ明るい色彩よりも抑えられています。
国家買い上げからルーヴルへ
この絵は1864年、ナポレオン3世の宮内費予算によって、コロー本人から直接フランス国家に買い上げられました。その後25年間フォンテーヌブロー宮殿に飾られ、1889年にルーヴル美術館へ移されています。
よくある疑問
- 『モルトフォンテーヌの思い出』はどこにある?
-
パリのルーヴル美術館の所蔵です。展示室952にあります。
- モルトフォンテーヌとはどこ?
-
フランス北部、オワーズ県にある小さな村です。コローは1850年代にこの地をたびたび訪れ、水面に映る光や反射を研究していました。
- 現地でその場で描いた絵なの?
-
いいえ。この絵は現地でのスケッチではなく、過去の訪問の記憶と、村の池に差す光の印象をもとに描かれた作品です。題名の「思い出(スーヴニール)」もそのことを示しています。
- 他にも似た絵はある?
-
コローは1865〜70年ごろ、同じ湖と木々を同じ構図で描いた『モルトフォンテーヌの舟人』という作品も手がけています。ただし風景の細部には違いがあり、いずれも実景の忠実な記録ではなく、一般化された印象として描かれたことをうかがわせます。
基本データ
- 作者
- ジャン=バティスト・カミーユ・コローJean-Baptiste Camille Corot
- 制作年
- 1864年
- 種別
- 絵画
- 技法・素材
- 油彩、カンヴァス
- 寸法
- 65.5 × 89 cm
- 所蔵
- ルーヴル美術館(パリ)
- 展示室
- 近代
出典・画像について
画像: Wikimedia Commons(Public domain)。元ファイル