天平の面影

藤島武二《天平の面影》1902年
藤島武二Fujishima Takeji
天平の面影Reminiscence of the Tempyō Era
1902年
油彩、カンヴァス、197.5 × 94.0 cm
アーティゾン美術館(東京)

この作品のデータ

作者藤島武二
制作年1902年
時代日本・近代同じ時代の作品 19点
様式近代洋画同じ様式の作品 11点
種別絵画
技法・素材油彩、カンヴァス
所蔵アーティゾン美術館東京同じ所蔵の作品 6点
有名度★★★名画クイズで出題(全作品の解放)
何がすごいのか

『天平の面影(てんぴょうのおもかげ)』は、藤島武二が正倉院の宝物「箜篌」を見たことをきっかけに描いた、想像上の天平時代の女性像です。国の重要文化財で、アーティゾン美術館が所蔵しています。翌年の続編『諧音』は本作以上に評価されましたが、藤島自身が塗りつぶし現存しません。

見どころ

手にする箜篌

女性が手にしているのは箜篌(くご)という古代の撥弦楽器です。藤島は正倉院宝物の箜篌を見る機会を得て、天平時代への空想をふくらませ本作の着想を得たといいます。

薄青紫と赤紫の衣

女性は薄青紫の上衣に、赤と紫の縦縞が入った長袴を着けています。特定の史実の再現ではなく、古代への憧れから自由に想像を広げて描かれた衣装です。

金地に咲く桐の花

背景は金地で、女性は花咲く桐の木の前に立っています。装飾的な金地と古代への浪漫性を融合させた画面構成は、発表当時から高く評価されました。

正倉院の宝物からの着想

1902年の読売新聞のインタビューで、藤島武二は本作の着想について語っています。前年の1901年に奈良を訪れ、仏像や仏画を見て回るうちに正倉院宝物の箜篌を見る機会を得て、天平時代に空想をめぐらせたことが本作につながったといいます。

本作は1902年の白馬会第7回展に出品されました。藤島が35歳のときの作品です。出品時の題は『天平時代の婦人図』とも『天平時代の面影』とも伝わります。文化庁の解説によると、このときは未完成の「半双」とされ、のちの第10回白馬会紀年展に『天平の面影』の題で1点のみ出品されました。特定の史実や場面を厳密に考証して再現したものではなく、古代への憧れから自由に想像をふくらませて描かれています。

女性像の手本にした古代の美人図

文化庁の解説によると、藤島は女性の表現にあたって、浄瑠璃寺の吉祥天像や、正倉院に伝わる鳥毛立女屏風の美人図を参考にしたとされています。箜篌という楽器だけでなく、顔立ちや姿の表現にも奈良時代の美術を取り入れていることがわかります。

明治浪漫主義の先駆け

当時の日本の洋画壇は、フランスから帰国した黒田清輝(代表作『湖畔』)を中心とする白馬会系の外光派的な作風が全盛でした。これに対し、古代の伝説や神話、歴史に題材をとる浪漫的な絵画が明治30年代半ばから現れ、本作のような藤島の作品がその先駆けとなりました。藤島は本作を描く前年から雑誌『明星』の装画を手がけ、同誌の浪漫派詩人たちとも交流を持っています。

この作風は青木繁の天平時代や古事記を題材とした一連の作品によく継承されました。青木は1904年に『天平時代』を描き、岡田三郎助も白馬会第9回展に『元禄の面影』を発表しています。文化庁の解説でも、本作は青木繁に大きな影響を与えたとされています。青木の『海の幸』や、古事記に取材した『わだつみのいろこの宮』もあわせて見ると、その流れがつかめます。詩人の蒲原有明は、本作に想を得た詩「独絃調三首」を『明星』に発表しています。

現存しない続編『諧音』

本作発表の翌1903年、藤島は白馬会第8回展に、対作品となる『諧音』を出品しました。阮咸という古代の絃楽器を爪弾く女性を描いたもので、未完成にもかかわらず本作以上の評判を得たといいます。評論家の上田敏や詩人の蒲原有明はこの作品を高く評価しました。

しかし『諧音』は展覧会の後、藤島自身によって塗りつぶされ、現存していません。洋画家の児島虎次郎が模写した作品が大原美術館に残っており、失われた原画の面影を今に伝えています。

よくある疑問

『天平の面影』はどこにある?

東京都中央区のアーティゾン美術館が所蔵しています。公益財団法人石橋財団の所有です。

何が描かれている?

箜篌という古代の撥弦楽器を手にして立つ女性です。薄青紫の上衣と赤紫の縦縞の長袴を着け、花咲く桐の木の前、金地の背景の中に描かれています。特定の史実の再現ではなく、天平時代への空想をもとにした想像上の情景です。

『天平の面影』の大きさは?

縦197.5cm、横94.0cmです。縦長の画面に、ほぼ等身大に近い女性の立ち姿が描かれています。

なぜ天平時代を描いた?

藤島は1901年に奈良を訪れ、仏像や仏画を見て回るうちに正倉院宝物の箜篌を見る機会を得て、天平時代に空想をめぐらせたと語っています。当時の洋画壇が外光派的な写実を中心としていたのに対し、古代の伝説や歴史に題材をとる浪漫的な絵画の先駆けとなりました。

重要文化財に指定されている?

2003年5月29日に国の重要文化財に指定されています。藤島武二の代表作の1つとされています。

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出典・画像について

画像: Wikimedia Commons(Public domain)。元ファイル

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